GAZZER-WORKS が考えていること 

「皆と違う」という個性化と「皆と一緒である」という同胞化との、その間で揺れ動くのがファッションであるとしたら、その相対的な位置取りはそのままこの社会での自分自身の存在感を表明することになります。
さらに言えばそういったことには興味がないと振る舞うことですらも結果的にはファッションとしての表明の中で捉えられてしまいますから、改めて考えてみると社会の中で他者から自身がどう見られるのかという自覚は人間としての基本的な感性なのだということに気がつきます。
このような複雑で相互矛盾するような人間心理の中で、ファッションの中でも特にモードと呼ばれる分野は、よりいっそうこうした課題に積極的かつ戦略的に取り組まれてきました。
そこで生み出されるモード(流行)は、ビジネスと一体となっているために、それは人間の欲望に最短距離で直結し、時代の空気感と一体となって人間心理をくすぐり続けてきたのでした。
しかし私たちはこうしたモードという形式だけがファッションデザインのすべてだとはなぜか信じられなくて、それ以外にも何か違うニュアンスの方法論があるのではと思い続けてきたことも事実です。
その結果、私たちはそうしたモード・ファッションの在り方に対して少し癖のある変化球を投じてみたいという押さえきれない欲求が涌き上がってきました。
野球で言えば打者のタイミングを外すようなゆったりとした超スローボールを投じてみたいと考えたのです。
確かにファッションを考える上で、モード(流行)とは完全に手を切ることはできないにしても、愛好者(ユーザー)との間にわずかでもいいので思惟的な空間を設けてみたいと思ったのは私たちにとってとても自然な発想なのでした。
そのためにはお互いの間でのコミュニケーションを大事にする関係は重要だということも理解できて、私たちはその考えに基づいた独自の受注・供給のシステムを採用することにしました。
もしもこうした考え方に戸惑いながらも共感いただけて、さらには信頼感のもとに皆さんとの関係を築ければこれ以上の幸せはありません。
GAZZER-WORKS はファッションを仲立ちとして、結果的に人と人との緩やかな出会いの場所になればと祈るような気持ちで服作りに取り組んで行こうと始めたプロジェクトなのです。
同志よ、集まれ!
TO-GAZZER!

中妻 和子 
Kazuko NAKAZUMA 

布を裁ち それらのピースを縫い合わせ 組み立てていくと新たな生を得たかのように衣服が出現します。
その瞬間に立ち会うことは私の至福の時間です。
私はそんな喜びに満たされた日常の中で、依頼者との共鳴関係を大切にするオーダーメイドの服作りを続けてきました。
そしてひたすら私なりの「豊かな服」とは何なのか?という問いかけを常にこうした現場で考えてきたように思います。
そうした折に、美術家でデザイナーでもあった黒瀬氏との偶然の出逢いがありました。
彼が持つ柔軟なアイディアと詳細な造形感覚は、私が創りだす衣服を強固なものにし、その新しく 自由な発想は 私の技術にさらなる活力を与えることになりました。
そして私の視野は幸運にも更なる広がりを持つこととなったのです。
今回、GAZZER-WORKS でのコラボレーションプロジェクトの誕生により、これまでのファッションでの常識や約束事にも囚われる事なく、私たちの考える「豊かな服」を追求する場所ができました。
私にとってわくわくするような冒険の旅が今まさに始まったように思っています。

黒瀬 剋 
Masaru KUROSE 

私はこれまでアートやデザインの分野で活動を続けてきました。 <http://www.from-to.jp/
そうした中で常々ファッションと建築はよく似ていると思ってきました。
建築ではその空間内に人間が物理的に存在することが前提で計画されますし、その外観はいつも社会に向かって対峙するように露出しています。
この構造はまさしくファッションデザインの在り方そのものです。
そして衣服は建築以上に切実に身体に近接していて、人の内面に肉薄している様がより私の興味を駆り立てます。
今回偶然に、優れた衣服の作り手である中妻氏との出会いがあって、こうした感覚を実際に思索できる場を手にすることができました。
私はこれまでファッションデザインの現場に身を置いて来た人間ではありませんから,逆に業界の既存のセオリーに縛られることなく、そんな私の自由な発想を堅実な技術で受け取ってくれる彼女の存在があればこそ、大胆なアイディアに挑戦できます。
結果的に、それはまさにファッションデザインという狭い範囲のことだけでなく、より自由を目指す人間の生き方に手を貸すことにも繋がるだろうと思っています。
GAZZER-WORKS はこうした考えを実際に形にする場所でありたいと願っています。